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美術月評〈11月〉

 沖縄市で9月から開催されていた「連続写真展 沖縄で/写真は」の最終回、「タイラジュン 白いゴーヤー 2012」(ギャラリー M&A、11月13日~18日)は、先行する参照項が明示的に過ぎた。展覧会タイトルは、明らかに比嘉豊光の「赤いゴーヤー」を意識してのものであり、展示された写真のなかにも、比嘉の写真を撮影した写真が含まれていたりもした。また、日付表示機能によって写真のプリントに日付を記すのは、荒木経惟の同様のそれが、容易に思い起こされる。さらに、展示された写真には、山田實、石川真生など、沖縄の先達のポートレートも含まれており、そのことは、自らを沖縄の写真家の系譜位置づけようとする、性急な野心であるようにすら見える。
 このように、タイラの作品には容易に批判し得る要素が多分に含まれている。けれども、タイラの作品を、全面的に批判するつもりはない。会場の壁面ほぼ全面に展開された決して少なからぬ写真からは、タイラがこの展覧会に際して多くの量のシャッターを切ったことが推察される。そのことは結果的に、散文的な日常を記述することにある程度成功している。その散文性こそが、この世代の写真家のひとつの現実感の表明であろう。タイラの作品は、量が質を規定している。産業構造に根ざしたそのメディアの特質上、写真という表現には、そのようなことがあり得るのだ。
 「石川真生写真展 フェンスにFuck You!!」(アカラギャラリー、11月9日~18日)は、この写真家の先行するシリーズ「日の丸を視る目」を、その演劇的なセッティングにおいて、形式的には踏襲している。しかし、日の丸をモチーフにした前シリーズに見られたような、出演者の多様な表情や陰影は、このシリーズには見られない。このことは、沖縄内の基地を隔てるフェンスに対して、「Fuck You!!」という単一の問題設定に限定されていることに由来することだろう。筆者自身、基地に対して「Fuck You!!」という意思は共有するものであるが、政治的なイシューとは別に、芸術はより多義的な意味作用を持つものであるはずだ。そもそも石川は、人間の陰影に富む多様な生を捉えることに優れた写真家ではなかったか。
 「照屋勇賢展 I have a dream」(画廊沖縄、11月23日~12月2日)は、前回の同画廊での個展と同様、紅型を使用した作品が中心であった。ウルトラマン、昭和天皇、バラク・オバマをモチーフとした各々の紅型には、それぞれ沖縄、日本、アメリカが重ねられているのであろう。また、別の作品として、オスプレイ配備反対の県民大会の新聞紙面を素材に、「It’s about me, It’s also about you.」との文句が、紙面を切り抜くことで、複数の言語で記された作品も提示された。マーティン・ルーサー・キングのよく知られたフレーズから借用された展覧会のタイトルが示すように、照屋のこの諸作品は、政治にかかわるステートメントを前面に押し出すというよりも、対話的知性を観者に求めているのだと理解すべきであろう。しかし、対話を求める照屋自身は、一体どのような資格でもって、自らの立ち位置を設定しているのであろうか。紅型の作品が示すように、照屋の立場は、政治的な問題を扱う振る舞いを見せつつも、その結論は先送りにし、宙づりにされている。このような、決定を遅延させる態度は、ポストモダニズム以後の典型的な身振りである。また、照屋の作品は基本的に、1980年代以後から展開されるアプロプリエーション(流用)の方法論で組み立てられている。この方法論は、表象する主体(この場合照屋自身)が何者をも代表しないという態度表明につながるが、だとすれば照屋の作品は、政治を主題にした巧妙な美術内ゲームでしかないということになる。
 「アジアをつなぐ 境界を生きる女たち1984-2012」(沖縄県立博物館・美術館、11月27日~2013年1月6日)は、国内4美術館による共同企画展で、山城知佳子の《コロスの唄》(2010年)など、沖縄会場で初めて観ることのできた作品もあり、その点は有意義であった。この展覧会の意義については、既に別のところ(『美術手帖』2012年12月号)で記したが、沖縄展は、会場構成の面で問題がある。本来、この展覧会は、全5章の構成として入念に考え抜かれたものであったが、沖縄展では、その展示構成が崩され、展覧会のコンセプトが極めて解りづらいものに変貌してしまっていた。この展覧会は、展示作品を個別的に見せるということよりも、非西洋圏であるアジア諸国における女性のアーティストの作品を一望することで、各地域の政治や社会の問題を浮き彫りにしつつ、女性のアーティストがそれらについて作品によってどのような取り組みをしているのか、ということを見せることに主眼が置かれていたはずだ。そうした意味で、展覧会全体のコンセプトを重視すべきであったが、沖縄展ではその配慮が欠如していた。
 この展覧会に相乗りするように、女性のアーティストだけを集めてコザの街において開かれた「BEYOND THE PLACE」(11月27日~12月18日)では、平良亜弥や宮内由梨の作品など、興味を惹かれるものがなかったわけではないが、「アジアをつなぐ」展のような、女性のアーティストに限定する必然性は、どこにも見られなかった。出品したアーティスト自身が主導しているならばまだしも、さしたる根拠もなく、このような展覧会を企画するとは、むしろ「女性のアーティスト」を囲い込み、ラベリングをする逆差別にすら見える。

『沖縄タイムス』2012年12月7日
by rnfrst | 2012-12-08 08:42
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