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美術月評〈3月〉

 3月、最も優れた作品が提示されたのは「阪田清子展」(GALLERY point-1、2月26日~3月6日)であろう。牧志公設市場の直近の、アーケードの2階に位置し、うなぎの寝床のような極めて狭いギャラリーではあるが、阪田はこのギャラリーのロケーションを最大限に活用していた。展示された作品は、座面下部にいくつもの足が生やされた木製の椅子1脚と、椅子の作品のプランのためのものであろうドローイングが1点、ただそれだけである。しかし、ただそれだけにもかかわらず、観る者に密度の濃い経験をもたらすのは、なぜであろうか。
 阪田は、アイデンティティーのゆらぎや、ものや場所に沈潜する記憶といったものを、主題にしてきた作家である、と言っていいだろう。古ぼけた椅子と、同じくさまざまな椅子の足の部分だけを接合した今回の作品は、これまでの阪田の取り組みを引き継ぐものである。この椅子それ自体は、何か特定の記憶や物語を語るわけではない。ゆえに観る者は、椅子に染み込んでいる記憶を読み解くのではなく、記憶が沈潜しているであろう椅子を目にすることによって、自分自身の記憶を紡ぐのである。そのような記憶の生成装置として、阪田の作品はある。
 阪田の作品がもたらす密度の濃い経験は、恐らくその辺りのことと関係があるだろう。観る者は、作品と対峙することによって、椅子と対話し、さまざまな記憶や過去の物語を語らうような感覚を受ける。それは親密な対話であったり、互いに相いれないディスコミュニケーションであったりするが、いずれにせよ作品である椅子は、そのような「もの」との出会いを観る者に刻みつけるのである。情報化社会が広く浸透する今日、交換不可能な特別な経験を感じることは、かつてと比べて格段に少なくなっている現状であるが、阪田の作品は、そのような現在の状況において、小さいながらも、美術作品が今日なし得る優れたあり方を提示していた。
 「佐藤大地 repair」(gallery M&A、3月5~13日)は、今日の絵画のあり方について、考えさせられる個展であった。佐藤の作品の興味深い点は、相互に無関係なさまざまな様式を同時並行的に取り扱うことにある。いずれも絵画の外部に描かれる対象を持つ再現的絵画であるが、エドワード・ホッパー風、ナビ派風、デイヴィッド・ホックニー風、リアリズム風等々、といったように、その描き方は一定していないし、作品のサイズも大きめのタブローから小さなものまで、さらにはキャンバスを木枠に張らずにそのままピンナップした作品まであった。
 様式の等価的な扱い、インスタレーション的な作品展示の手法、具象絵画へのてらいのない取り組み、といった点は、ポストモダンの絵画ということの典型的な表れであるし、事実、このような絵画の(スタイルなき)スタイルが、今日において先端的とみなされている絵画作品と並行性を持っている。インターネット上の無数の画像から選択されたかのようなモチーフと、画家自身の極めて日常的なモチーフ(恐らく画家の友人を描いたのであろうような作品)とが、世界を認識する遠近を欠いたままに同時共存していることもまた、この若い画家の今日的な感性を表しているのであろう。
 以上のようなことは、批判の意味で言っているのではなく、佐藤が確かに現代性を認識しているのであろう点を評価してのことである。ただ、佐藤が、そのような絵画の今日的なあり方を意識的に方法化しているかというと、恐らくそうではないだろう。佐藤の今後の画家としての展開に注意を向けさせるという点では、今回の個展は注視すべきものであったのは確かである。
 美術史的な観点からは、「𤘩宮城昇の写した世界 埋もれていた昭和モダン」(那覇市歴史博物館、3月4日~4月20日)が、極めて興味深い展覧会であった。当時、東京の最先端のモダニズムの面々と交流しつつその空気を吸い、戦前の那覇で写真館を開いていたこの人物は、戦前の沖縄の芸術や文化を検証する上で、調査に値するのは間違いない。ただ惜しむらくは、博物館の性質上致し方ないとはいえ、写真作品の展覧会というよりも、文化史的な展覧会としての性質が強かったことだ。しかしこのことは、いずれ美術館が取り組むべき問題であろう。
 意欲的な企画としては、那覇市、沖縄市、伊江島で繰り広げられた「ヴィデオ・パフォーマンスによる、オキナワ・アート・アクション!」(3月18日~21日、27日)を挙げておくべきであろう。けれども残念ながら、このプロジェクトの委嘱作品である制作プログラムとして展示・上映された作品は、軒並み質が低かった。良企画ではあるので、継続しての開催を望みたいところである。
 旧作も含めて展示として再構成された「ライアン・ガンダー展」(県立博物館・美術館 コレクションギャラリー2、2月1日~5月8日)は、作品は優れていたものの、公立の美術館で開催される展覧会としては、あまりにも作品のコンテクストの説明が不足していた。美術館側の作品理解の、より深い咀嚼が望まれるところである。
 その他「第63回沖展」(浦添市民体育館、3月19日~4月3日)、「沖縄交流レジデンスプログラム報告展 アーティスト山城知佳子 フィリピンに、行ってきました!」おきなわ時間美術館、3月25日~4月3日)、「山城えりか個展」(gallery M&A、3月26日~4月3日)などがあった。

『沖縄タイムス』2011年4月8日
by rnfrst | 2011-04-09 10:38
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